日本の看護制度での看護診断の考え方


M・ゴードン博士著の「NANUAAL OF NURSING DIAGNOSIS」(Mosby.Inc発刊)によると,看護計画の段階で,「看護治療が可能か?」という看護問題の思考段階で,もしも
「NO」だったら・・・

それは,「適切なケア提供者に紹介」することになるというのです.

「看護治療を受けることが可能でない」患者って,どんな人だろうか?
例えば中枢性または脊髄神経障害による神経膀胱の「反射性尿失禁」だったら,看護治療の手立てがありません.その場合は,医師による何らかの対応がなされて(尿留置カテーテルの指示),ナースは協同の問題として,看護ケア(この場合は医学的な)を実施することになるというようなプロセスが書かれています.

と,いうことは「急性疼痛」「急性混乱」「ガス交換障害」等,病気の急性期に起こるような看護問題の症状は,殆どそのプロセスとなるのです.

酸素吸入・鎮痛剤や安定剤の投与はすべて医師の指示かで行なう治療行為ですから,急性期や病気の増悪期における看護診断計画は,殆ど適応できないのです.

つまり,急性期医療では,看護問題は殆ど存在しないということです.「急性疼痛」も入院患者さんの場合は,ナースが痛みをとるケアをするというのではなくて,医学的な治療(鎮痛剤など)で早く痛みをとってあげたほうがいいですし,温罨法や寒冷法で痛みが取れるのは,肩こりなど限定した症状だと思います.
看護問題としての「急性疼痛」と医学問題の「急性疼痛」を区別する判断能力が必要となります.

 
  セブンラベルの看護診断は,時には観察の段階で診断から除外される


看護過程の第一段階の思考は「観察/アセスメント」ですが,次の看護診断は患者の状態や,医療的条件によって,すでに看護治療を行なうための思考から除外されると,江川隆子教授は言っています.

1)床上移動障害
2)移乗能力障害
3)歩行障害
4)摂食セルフケア不足
5)排泄セルふケア不足
6)入浴/清潔セルフケア不足
7)更衣/整容セルフケア不足

看護診断思考できない条件は次のような患者の場合です.
①医師の治療的制限で看護治療で機能訓練等を行なうことができない場合
②患者自身の機能の回復が望めない場合,或いは家族及び看護判断で訓練を行なえない場合

①の多くは,術後や保存的療法を行なっている患者の場合によく観られる条件です.全く動かしてはならない指示の場合と,看護者による行動援助のみ(自力での可動は禁止)の場合があります.
.②は,先天性の身体機能障害の患者さんや超高齢者で寿命からして訓練を要しないと判断する,或いは本人・家族がそれを望まない場合(癌末期の患者さんも含む)
②は,かなりの倫理観や看護観が左右されますので,家族等と事前に相談しておくほうが良いと思います.
このような場合は,情報の看護診断解釈は必要ありませんので,ナースの思考は看護計画の前段階まで,一気に飛んで,どのようなケア(介護・援助)が必要かを判断します.

例えば,「床上移動障害」では,
1)体位変換介助ケア
2)坐位移動介助ケア
3)端座位保持介助ケア
また「摂食セルフケア」では,
1)摂食介助ケア
2)セッティングケア
等となります.


  看護診断の症状・徴候はどのような状態を観察するのでしょうか

NANDA-Iの定義と分類を読むと分かりますが,200年からは分類法Ⅱと称して「多軸構造」になっていて,7つの軸があります,第1軸は「診断概念」で必須得軸ですが,第7軸が「診断状態」を現し,多くは≪実在型≫そして≪リスク型≫です.≪ウェルネス・ヘルスプロモーション≫は,なんだかつかみどころのない観察が難しい診断です.

床で観られる看護診断の症状は,殆ど実在型です.リスク型の診断は,観察の判断が難しいと思います. でも「転倒リスク状態」「皮膚統合性リスク状態」は社会保険診療報酬で点数化されている診断です.他にリスクマネージメントの観点からだと「身体損傷リスク状態」「対自己暴力リスク状態」「自己傷害リスク状態」等があります.

3年前にM・ゴードン博士が,僕たちの研究会の為に来日講演をしていただいたときに,こんなプレゼンを行なってくれました.
「アツ!何かが空を飛んでいる」「あれは鳥か,飛行機か,それともスーパーマンかな?」って・・・
「鳥だったら翼があるし,飛行機だたらプロペラがある.またスーパーマンだったらマントがきっとあるはず」って言うのです.

これは看護診断の観察方法を例えたもので,「空を飛んでいる」という事実は,「診断の手がかり」で,言い換えれば,診断の症状のなんです.例えば,「食欲がない」と言う訴えです.「栄養摂取消費バランス異常:必要量以下」だと,BMIは18.9%以下だし,「便秘」だと,排便がなくて,腹部の緊満感があるし,「不安」だと,オドオドしたり,落着きがなく,時には布団にふさぎこんでいるという症状も起こるのです.でもこれらは「食欲がないの・・・」っていう訴えの症状が共通しているのです.

この考え方で看護診断を推論できるのは,看護診断の各々の診断の手がかりとなる症状や,その副次的な症状まで覚えておかないと観察できません.

そこで,江川教授を塾長とする「看護診断寺子屋塾」では,臨床で観られる看護診断をリストアップ(.当時48名の臨床ナースによって選択)した看護診断から,診断の手がかりとなる「診断指標」を決定して,その指標の臨床的症状を抽出しながら,観察項目を機能的健康パターンの枠組みに基づいて整理したのが「成人看護系アセスメントツール(演習版)」として完成しました(NAR版Ver.1.0.現在Ver.2.0開発).

このツールは60の看護診断で成り立っています.そして,M・ゴードン博士の「機能的健康パターン」の11のパターンに層別して(すでにゴードン博士によって診断ラベルは層別されていますが),その枠組みに適応する看護診断を推論できるようになっています.その後,一部観察項目を改変したのが,現在,NAR版Ver.2.0として活用しています.

巷では,NANDA-Iの分類法Ⅱの13の枠で観察するのだとか.ロイ看護理論から観察するのだとか言われていますが,実際に看護診断の診断手がかりの症状・徴候を導きだしているのでしょうか?
もしかしたら,「枠組み」だけ使って,後は作成者の勝手な解釈で,ツールの中身を創作しているのではないでしょうか?


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