1980年代の看護過程/看護計画


「The Nursing Process:日本語訳名;看護過程ナーシングプロセス第2版(医学書院.1984)」が,岩井郁子先生他訳で出版された看護過程を読みふけった日々がありました.
本著によると「看護過程は,看護の目的,すなわち,クライエントの最良の健康を維持すること,及びこの状態に変化が生じた場合には,クライエントの状況に必要な看護ケアを質・量ともに提供し,クライエントを健康な状態に回復させること(中略)の実現を意図する一連の計画的行為である」(本著p177から一部引用)と書かれています.
そして,本著には,看護過程の理論的枠組みとして
1.一般システム理論→フォン=ベルタランフィ(オーストリア生まれの倫理生物学者,第2次世界大戦時ナチスの侵略を逃れてカナダへ亡命,その後北米で活躍)の理論を引用
2.人間ニーズ理論→マズロー・コームズらの理論を引用
3.知覚理論→人間の内部環境と外部環境おtの相互作用に知覚認識
4.情報理論とコミュニケーション理論
5.意思決定理論と問題解決理論→人間尾問題解決行動に関する心理学的理論等
そして,看護過程は,①アセスメント,②計画立案,③実施,④評価とフィードバックして,①アセスメントという構成要素の図式になるという.
看護計画の構成要素は,①ニーズ,②看護診断(原因及び関連因子・根拠),③目標,④看護方略となっています.

ユラ・ウォルッシュによって書かれたこの著は,1983年にアメリカでCopyrightされていますので,まだNANDA(北米看護診断協会)の活動は,看護診断となる看護問題の範疇を検証している時代でした.

また,「やさしい看護過程(監訳:高木永子先生)」メヂカルフレンド刊.1983年(Copyright1980年)の翻訳本では,看護計画書の構成は,①情報収集,②情報の明確化,③看護診断,④目標,⑤看護行為,⑥理論的根拠,⑦評価,⑧再評価となっています.

 
     看護計画を有効なものにする為には「実践可能な記述」で「共有」できるもの


看護計画は「絵に描いた餅」であってはなりません.計画した内容(方策やインターベンション)が,日々の看護ケアで実行されなければ意味がありません.そして,ナースの看護実務の権限で行なえ,そのケアの結果をナース自身で評価できるものであるべきです.
,医師の指示に基づく看護援助を計画書に記載しても,成果(目標)の判断は不可能です.医師の指示に基づくものは,患者さんの病気の治療をナースが医師に代わって行なうものと,病気の観察や,治療的なケアだと考えます.それらを「看護計画書」に記載するのか,或いは疾患・傷害別に治療計画のガイドラインに沿って看護業務を行なうのかを検討すべきだと考えます.

看護計画の構成要素を考えるためには,看護問題の範疇を明確にする必要があります.江川隆子先生(京都大学大学院教授)は看護アセスメント研究会の「看護診断の達人になるために」の研修会で,帯状のラインに医学問題と看護問題を層別して,看護師の責任範疇と医師の責任範疇を明確に著しています.そして,看護師の責任範疇の看護問題を決定するために「看護診断」を位置づけ,その計画は「看護治療(看護介入)」とし,看護治療を行なわない(或いは行なえない)範疇を看護ケアとして区分しています.また医師の責任範疇のなかで,看護師も医師と共同して行なう(病気の観察等f)範囲もあることを提示しています.

このように看護問題の範疇を明確にして,「看護診断」の範囲の看護計画か,「看護ケア」の範囲の看護計画か,或いは医師の責任範疇ではあるが,医師と共同して行う業務の範囲であるかを認識することで,看護計画書の形式が明確になります.

1.看護診断の範囲の看護計画
≪記載項目≫
1)看護診断名
(1)症状・徴候(S:symptom)
(2)関連因子或いは寄与因子/原因(E:etiology)*必ずしも必要でない
(3)看護診断がリスク型の診断の場合は危険因子の臨床徴候(R:risk factor)
2)成果(期日を含めて記載)
3)実施計画
(1)観察項目
(2)治療項目(或いは看護介入)/教育項目
(*「ND:知識不足」等の特定な診断について,教育プログラムを実施する場合のみ)
≪記載要点≫
・看護診断の症状・徴候(S)は,観察・アセスメントされた事実で,看護診断の診断指標と照合されたもの
・成果:看護診断の(S)/(E)から,臨床判断で,成果(症状や原因の解決或いは軽減)として可能なものを選択して,その期待すべ き状態と,期待する日程
・観察項目:,成果の状態を継時的にモニタする項目
・治療項目:成果を達成するための看護介入方法(トレーニングなど種々の治療プログラム)で,具体的に,毎日か週に何回か,時 間はいつか,どの程度の時間か(必要であれば誰が行うか)などを,実践可能な計画を記載

ここで注目(または留意)すべきことは,
1)看護診断名のみを記述していないこと,患者さんの看護診断の症状・徴候を明確にしていることです
2)成果はその症状・徴候に対して(多くは)どのような状態に改善するかを具体的にしていることです→NANDA-I看護診断定義と分類の診断指標や関連因子の記述をそのままコピーしていない(診断指標の多くは複数の臨床症状をひとつの述語として表現しているので,症状・徴候が具体的ではない)
3)観察項目は看護治療(介入)によって症状・徴候がどのように変化(解消にむかって)するかをモニターすることで,項目は成果とリンクします.(例えば,「ND:不眠」の場合に,その症状・徴候が「寝つきが悪く就眠時間より1時間たっても眠れないと入眠困難を訴える」のであれば,成果を「就眠時間から1時間以内に入眠し入眠困難の訴えがなくなる」として,観察項目は「入眠困難の訴え」のみです)
4)治療(介入)項目は,例にそって言えば,入眠できる看護方策で,アロマバス(足浴)やアロママッサージ(ラベンダ,イランイランの精油を1%混入のベジタブルオイルを用いて)を就眠時間後に15分毎日実施するなどの具体策を記載します
このような看護計画は,とてもシンプルでそして実践可能な計画書となります.(鷹)

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